金融機関の基幹システム更改・統合を成功に導くための全体設計とは
開発以外に潜む“見えにくいリスク”を可視化し、経営と現場をつなぐプロジェクト運営の実践
目次
日本の金融機関では、勘定系をはじめとする基幹システムの更改・統合が大きな経営テーマとなっています。
しかし実際の現場では、システム開発だけではなく、事務手続・顧客対応・データ移行・監査対応など、
システム以外の領域でも膨大なタスクが同時多発的に発生します。
こうしたタスクを適切に整理・管理しないままプロジェクトが進んでしまうと、リリース直前の重大トラブルや、移行後の業務混乱につながるケースも少なくありません。多くの金融機関で、基幹システムの更改・統合プロジェクトに不安や負担感を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、全国の金融機関に対する第三者評価・リスク管理・大型プロジェクト問題分析を多数経験してきた Atlas Technologies パートナー 藤森 に、基幹システム更改・統合プロジェクトを成功に導くうえで押さえるべきポイントを聞きました。
基幹システム更改・統合に取り組まれる際の検討材料として、ぜひご参考いただければ幸いです。
自己紹介
藤森さん、よろしくお願いします。まずは自己紹介をお願いします
富士銀行(現みずほ銀行)で約2年、営業店にて取引先渉外を担当した後、デリバティブ関連のフロント・ミドル・バックオフィス向けシステム開発に約9年半従事し、金融実務とシステムの両面に強みを培ってまいりました。
その後、大手監査法人(現あずさ監査法人)で3年4ヶ月、さらにEY(新日本監査法人、EYストラテジー・アンド・コンサルティング)では22年にわたり、ITリスク管理・情報セキュリティ管理・プロジェクトリスク管理を中心に、多様な金融機関向けサービスを提供してきました。
北海道から沖縄までの地銀・信金・信組、従業員十数名の外為証拠金事業者からメガバンクに至るまで、幅広い業態・規模の金融機関を支援してきた経験があります。特に、10年以上続く大型開発プロジェクトの問題分析・原因分析案件を複数手掛けてきた経験から、複雑性の高いプロジェクトのリスクマネジメントを得意としています。
金融×IT×リスクの三領域を横断できる点を強みとしており、現場の実態を踏まえた実践的な助言や、プロジェクトを安定的に成功へ導くための支援を提供しています。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
ベストプラクティス紹介
金融機関が基幹システムを更改・統合する際、最も重要になる点は何でしょうか
金融機関が基幹システムを更改・統合する場合、システム開発以外の領域でも様々なタスクが発生し、これらをしっかりと管理、対応しなければプロジェクトが失敗する可能性があります。
これには、基幹システムを更改・統合する金融機関のビジネスをしっかりと理解するとともに、更改・統合に向けてどのようなことを行わなければならないのか、全体像を押さえておくことが鍵となります。
銀行、証券、保険といった業種や更改・統合の方法によって必要なタスクは様々ですが、例えば、銀行のケースでいうと次のようなタスクが考えられます。
◆基本計画書、プロジェクト体制・運営基準、マスタースケジュール、主要領域毎の実行計画
◆主要工程(総合試験・総合運転試験)の開始・完了判定、リリース判定
◆基幹系システム対応(カスタマイズ対応)、データ(元帳)移行対応
◆基幹系システムを補完する自行バッチシステム等の管理・サブシステム管理
◆総合試験および総合運転試験
◆口座振替・総合振込・給与振込の委託先との接続試験、為替、自動機の対応
◆移行リハーサルおよび営業店試験
◆事務(主に営業店事務)手続変更対応:事務手続改訂、事務習熟・研修
◆顧客対応・広報活動:商品・サービス変更
◆本部事務・集中事務対応
◆金融機関全体のシステム更改・統合前後の移行対応
◆移行跨り・移行跨ぎ・過渡期対応(会社によって呼称は異なる)
◆データクレンジング
◆コンティンジェンシープラン(移行・統合時フォールバックプラン、移行後コンティンジェンシープラン改訂)
◆セキュリティ対応(プロジェクト推進中のセキュリティ、移行・統合に伴うセキュリティ水準確認)
◆当該プロジェクトのモニタリング(内部監査)の実施
◆会計監査(ITAC、ITGC、SOXなど)に向けた対応
こうしたタスクを網羅的に把握し、抜け漏れなく計画に落とし込めるかどうかが、プロジェクトの成否を大きく左右します。
基幹システムの更改・統合には複数の進め方があると聞きます。代表的な方式と、それぞれの特徴について教えてください
基幹システムの更改・統合には複数のアプローチがありますが、大きくは3つの方式に分類できます。それぞれにメリット・デメリットがあり、金融機関の状況や抱えているリスク、移行後に実現したい業務の姿によって最適な方式は異なります。
1つ目は、旧システムから新システムへリリース日を境に一気に切り替える「ビッグバン方式」です。最もシンプルな移行方式で、移行期間を短くできる点がメリットです。一方で、全機能を一斉に切り替えるため、想定外の不具合が発生した場合の影響範囲が非常に大きくなります。特に銀行の勘定系システムのように顧客や取引に直結する領域では、切り戻し計画やフォールバック手順を相当慎重に設計しておく必要があります。
2つ目は、旧システムと新システムを一定期間並行稼働させる「段階移行方式」です。新システムの品質を実機ベースで確認しながら徐々に移行を進められるため、リスクを抑えたい金融機関で採用されることが多い方式です。ただし並行期間中は、データ同期や二重運用に伴う追加コストが発生します。また、現場にとっては旧・新システム双方を想定した事務運用が必要となるため、事務負荷が上がりがちです。この方式を成功させるには、並行稼働の期間設定や品質確認の基準づくりが非常に重要です。
3つ目は、特に保険会社で多く採用される「ロングテール型移行」です。新システムには統合後の新商品を入力し、一方で廃止予定の商品は旧システム上で契約満期まで管理を続ける方式です。保険商品は長期契約が前提のため、旧システムを完全に廃止できるまで10年単位の期間が必要になることも珍しくありません。商品ごとの事務や計上ルールが大きく異なるため、移行管理の難易度は高くなりますが、無理に強制移行を行わない分、顧客影響を抑えやすい点が特徴です。
このように、どの方式にも一長一短があります。どのアプローチを選ぶべきかは、システムの特性、業務の複雑さ、現場の対応能力、顧客影響、そしてプロジェクト全体で許容できるリスクレベルなどを総合的に踏まえて判断する必要があります。
こうした複雑なプロジェクトを成功させるために、経営層やプロジェクト関係者はどのようなリスクを意識すべきでしょうか
これらの点を踏まえた上で、本来金融機関の経営陣をはじめとするプロジェクト関係者は、プロジェクトに係る様々なリスクを予め明確にした上で、リリース後システムが安定稼働するまでの間、適切に推進していくことが求められます。
ここでいうプロジェクトリスクとは、システム障害(対策:十分なテストを行う)やスケジュール遅延(対策:週次の進捗状況・課題の発生・解消状況のモニタリングの徹底)といったどのシステム開発プロジェクトにも当てはまるようなリスクだけではなく、そのプロジェクトの特性を踏まえると、リスクが顕在化した際の影響が極めて大きいもの、特に重要視しなければならないものがあります。
一般的な“システム障害”や“スケジュール遅延”以外にも、金融特有の重大リスクがあるとのことですが、特に影響が大きいケースを教えてください
はい。金融機関の場合は、一般的なITプロジェクトと異なり、「金融特有の構造やビジネス特性に起因する重大リスク」が存在します。単純な障害や遅延以上に、経営・顧客・風評・法対応など多方面に影響が及ぶ点が特徴です。
例えば次のようなケースです。
◆ 他行の並走プロジェクトの遅延・失敗が自社の移行に波及するケース
共同利用システムへの同時移行が前提の場合、他行の遅延はそのまま自社のリリース遅延につながります。
自社だけでコントロールできないリスクであり、重大な影響が出る可能性があります。
◆ 旧システムの仕様を把握できる要員が枯渇し、移行後に障害が多発するケース
自行バッチや古いサブシステムの仕様を理解した人材がほとんどおらず、解析が不十分なまま進めてしまう。
移行直後に連鎖的な障害が発生する典型的なパターンです。
◆ 商品・サービス差異の規模が大きく、顧客への説明不足からクレーム・訴訟に発展するケース
新旧システムで扱える機能が大きく変わる場合、説明が不足すると大量のクレームや訴訟につながる場合があります。
金融機関は風評リスクに非常に敏感で、経営影響も大きい領域です。
◆ 営業店事務が大きく変わり、現場の理解不足から業務が回らなくなるケース
本部が変更内容を十分共有しないまま事務習得を求めた結果、現場が混乱し、ベテラン行員の退職につながるケースもあります。
移行後の業務継続に大きな影響が出ます。
◆ 合併・統合・店舗統廃合などが同時に進み、プロジェクト難易度が急激に上がるケース
経営統合とシステム統合を同時に進める場合は、調整量が一気に増え、最終的にリリース延期に追い込まれることも少なくありません。
これらはいずれも「起きてからでは遅い」リスクであり、初期段階からの整理とモニタリングの枠組みづくりが重要になります。
こうしたリスクを踏まえたうえで、プロジェクト開始段階で最も重要になるポイントは何でしょうか。また、多くの金融機関で立て直しが発生してしまうのはなぜでしょうか
基幹システムの更改・統合プロジェクトを成功に導くために、開始段階で最も重要になるのは「プロジェクトの全体像を正しく描き、リスクと依存関係を初期段階で可視化すること」です。
これは単に計画書を整備するという意味ではありません。システム開発・事務・営業店運営・顧客対応・会計・監査・移行・コンティンジェンシー対応など、金融機関全体の業務を横断して洗い出し、タスク同士のつながりやボトルネックを明確にする作業を指します。
課題の解説
基幹システム更改・統合には膨大なタスクが存在し、失敗要因も多岐にわたるとのことですが、こうしたタスクを整理しても、実際の現場ではどのような課題が生じやすいのでしょうか
基幹システム更改では、1つのタスクの遅延が他領域に連鎖して影響するケースが多く、この「連鎖構造」を開始段階で把握できていないと、後になって深刻な問題が表面化しやすくなります。また、経営層がプロジェクトリスクの重大性を十分に理解できていないと、重要な意思決定が後手に回り、現場が対応しきれなくなることもあります。
多くの金融機関で立て直しが発生するのは、まさにこの初期段階での可視化不足が原因です。過去に同規模・同難度のプロジェクトを経験した金融機関は多くなく、机上で整理した計画と実態が乖離しがちです。特に、旧システムの仕様を理解する人材が不足していたり、営業店事務や顧客対応領域のタスクが軽視されがちだったりと、システム開発以外の領域に“見えにくいリスク”が潜んでいることが少なくありません。
結果として、移行リハーサル段階や総合試験の終盤で「想定されていなかった問題」が噴出し、大きな計画変更や日程延期を余儀なくされるケースが繰り返されています。したがって、プロジェクト開始時点での全体像の明確化とリスク可視化、そして経営層のリーダーシップによる意思決定が極めて重要だと考えています。
価値提供
こうした大規模プロジェクトにおいて、金融機関・ベンダー・第三者コンサルタントはそれぞれどのような役割を担うべきでしょうか。また、その中で Atlas Technologies はどのような価値を提供できますか
基幹システム更改・統合プロジェクトでは、多くの場合、勘定系ベンダーやSIerがシステム開発・運用の中核を担います。巨大かつ複雑な金融システムを安定稼働させる技術力と運用経験は、ベンダー側の大きな強みです。
一方で、プロジェクトの成功には、システム開発に加えて、事務・営業店運営・顧客対応・監査対応など、金融機関全体で取り組むべきタスクが非常に広範に存在します。ここを誰がどの粒度で設計し、誰がリスクをモニタリングするのかが、実務上の論点になります。
Atlas Technologies には、銀行・証券・保険など、金融ビジネスとシステムの両面を深く理解したコンサルタントが多数在籍しています。当社はシステム開発そのものを請け負うのではなく、第三者の立場からプロジェクト全体を俯瞰し、次のような支援を行う点が特徴です。
・プロジェクト全体像の整理と、リスク・依存関係の可視化
・システム開発と並行して発生する事務・顧客対応・監査対応等のタスクの整理・計画化
・経営層・プロジェクトオフィス・現場部門をつなぐコミュニケーションデザイン
・ベンダーとの要件調整・受け入れ側体制整備の支援
・第三者の視点からのモニタリング、リスクレビュー、問題分析
金融業務知識とITリスク管理の知見を組み合わせることで、「ベンダーが担うシステム開発」と「金融機関の実務・ガバナンス」の橋渡し役を担い、より質の高い基幹システム移行・統合プロジェクトの実現に寄与したいと考えています。
最後に
経営と現場をつなぐ「全体設計」から、確実な成功へ
基幹システムの更改・統合は、単なるITプロジェクトではなく、金融機関全体の業務・ガバナンス・顧客対応を巻き込む経営課題です。
システム開発そのものの出来栄えだけでなく、事務・人材・リスク・意思決定の設計次第で、成否は大きく左右されます。
本記事で述べてきた通り、プロジェクトを成功に導くためには、初期段階から全体像と依存関係を可視化し、経営層と現場が共通の認識を持って意思決定できる体制を構築することが不可欠です。
当社は、金融実務・IT・リスク管理を横断的に理解する第三者の立場から、基幹システム更改・統合プロジェクトの全体設計、リスク可視化、プロジェクト運営を支援しています。「計画はあるが不安が残る」「途中で立て直しが必要になっている」「経営層への説明に課題を感じている」といった局面においても、実態に即した実践的な支援を提供します。
基幹システム更改・統合に関するお悩みや検討段階でのご相談がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
貴行・貴社の状況に即した最適な進め方を、ともに検討させていただきます。